日本に荷物を送る(2)








中央郵便局。荷物を出すなら1時間以上かかる覚悟で。

 荷造り屋のプラディープは約束どおり翌日家までやってきて、書籍小包9個とキャロムボード1枚を荷造りした。所要時間3時間。800ルピー(2000円)を提示したが、郵便局から発送するときに手伝うからということで、900ルピー(2250円)になった。「11時ごろ来ると、混んでなくていいよ」「じゃあ来週の火曜日、その頃に行くからよろしくな」
 そして火曜日。今度は手抜かりなく自転車でリキシャーを連れてきて荷物を載せ、中央郵便局に直行した。9キロちょっとで60ルピー(150円)がメーターの値段だが、荷物代だといって10ルピー(25円)余計に取られる。すんなり払ってもよかったのだが、景気付けにちょっと渋ってみせて交渉する。「これくらいの荷物、2人乗ってるのと同じだろ。2人だったら特別料金じゃない。だから60ルピーだ」「いや、この料金表に荷物は10ルピーと書いてあって」「どこに書いてある? 見せてみろ。ほーらどこにも書いてないじゃないか」「いや70ルピー」「60ルピー!」「70ルピー!」……結局運転手は頑として聞かず70ルピーを払ったが、その代わり荷物を下ろすのを手伝ってくれた。インドでは、「ダメもとで言ってみること」が非常に大事だ。
さすが2回目だけあって勝手はわかっている。荷物はカウンターのそばに積み重ね、列に並んで順番をまつ。案の定プラディープはいなかったが、彼と一緒に仕事をしたモーネというおじいさんがやってきて、世話を焼きたがる。優先的に受付してもらおうと交渉したり、キャロムボードを送る方法を問い合わせたり。どうせお金目当てだろう、あまり世話にならないようにしようと思っていたが、視覚障害者が手紙を出しに来たのを手を引いて案内したり、割り込む若者に注意したりと案外いい奴だった。9つの書籍小包のうち1つが100グラムオーバーしていて、また並び直さなければならないかと思ったとき、本を2冊抜いて手持ちの針と糸で手早く梱包し、ぎりぎりで間に合ったのはお手柄。
さて書籍小包を無事出し終わり、今度はキャロムボードだ。一辺1メートル以上の大荷物のため、プラディープによれば駅の郵便局から出さなければならないという。駅の郵便局は大型荷物を扱い、列車でムンバイまで運んでそこから船に積む。確認のため聞いてみた小包窓口のおじさんも「ここでは受け付けられない。駅に行け」というので覚悟していたとき、見知らぬおじさんが英語で「その荷物はここから送れるよ」と声をかけてきた。見るからに怪しげで、裏ルートを知っているような素振り。「でも小包窓口で断られたんだけど」「大丈夫、こっちにきて」と郵便局の中にずんずん入っていく。
「No Admission」という扉を開くと、各カウンターの内側で、さっき書籍小包を受け付けたおばさんがひっきりなしの客に応対している。おじさんはキャロムボードをはかりの上に乗せ、「1700ルピー(4250円)だ」という。何の権限があってそんなことを……と思ったが、ここまできて詐欺もあるまい。財布にそんな大金はなかったので、銀行のATMに下ろしに行った。ちなみにモーネおじいさんはお金をおろすのもずっとつきっきり。リキシャーで駅まで行って急いでお金をおろして戻ってくると、あのおじさんはあろうことか、窓口業務をしていた。郵便局員だったのである。
あのたらい回しが得意な郵便局員が、わざわざカウンターの外までやってきて声をかけてくれたということが信じられなかった。おじさんは客の受付をいったんやめて、キャロムボードを送る手続きをする。4250円という金額はスピードポストという航空便の送料で、大事なキャロムボードを船で届けることを考えれば安いくらいだ(値段は1100円)。隣りの窓口のおばさんに「何それ?」と聞かれて「キャロムボードさ」と微笑むおじさん。もしかしたら、キャロムプレイヤーなのかもしれない。それなら合点が行かないこともない。「Thanks a lot!」「Welcome!」
2回目は意外にあっさりと片が付いた。が、残った問題はモーネにいくらお礼するかである。プラディープは発送の手伝い賃として100ルピーを余計に請求した。ならば、モーネはその中からもらうべきではないか。「お金はプラディープからもらってくれ」というと、モーネおじいさんの顔が曇る。「プラディープはここ2,3日来ていない」「でも友達なんだろ」「いや、友達じゃない!」そこに、先日荷造りをもっと安くすると言ってきたラッジューの奥さんと赤ちゃんが現れ、また「もっと安く荷造りするよ」「いや、もう荷造りは終わったんだよ」……話がややこしい。
結局、手帳の紙片に「モーネはプラディープに替わって発送の手伝いをしたので50ルピー以上渡すこと」と書き付けてモーネおじいさんに渡した。納得できなさそうな顔をしていたのが気の毒だったので、「それじゃあ、今度会うときまでプラディープと会えなかったら、私が払うから」というと、口だけニコリとして握手して別れた。
これであと日本に送るべき荷物は冬物の服と、インドで買ったボードゲーム。終わりが見えてきた。

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