電話格闘記(6)

2月2日、久しぶりに自宅に帰ってくると電話が死んでいた。確かに年末から断線しがちだったが、今回はずっと無音状態。携帯電話からかけてみたら話し中である。
ひとまず不動産屋のプラモードに言ってみた。「明日の朝、電話局に行く予定だからそのときに言っておくよ」そして翌日の夕方に聞いてみると、「今日は行かなかった。明日行くから」そしてまた翌日、プラモードのオフィスに行くと父親が留守番していて、「プラモードは娘を病院に連れて行ったから、いつ帰るか分からない」……こうして3日が過ぎる。
さすがに次の日言ったときは「明日行く」とは言わなかった。この一帯の電話工事を担当しているハルグレー〜これまでの電話格闘記でも登場した、たまたま通りかかるのを捕まえるしかない人であるが〜の携帯番号を教わる。この人の携帯電話はめったにつながらないのだが、翌朝かけてみたらたまたまつながった。「電話の調子が悪いんだけど、調べてくれるか」「わかった」「いつ調べてくれる」「午後」…しかしその日は直らなかった。
ちょうどその頃、電話料金の請求書が届く。正確に言えば、先月届いていたのが私のポストに入っておらず、誰かが預かっていて、思い出したかのように私の自転車の荷台に挟んでおいてくれたのである。ありがたいことだが支払期日はもう過ぎており、追徴料金40ルピーを払わなければいけなくなった。ポストはあるんだから、そこにちゃんと入れろ。
イェルワダの電話局に電話代を払いに行った折に、断線の苦情はどこに行ったらいいのか訊くと、ヴィマーンナガルの電話局に行くよう言われた。そして翌日ヴィマーンナガルの電話局に行くと、ワドガオンシェリの電話局に行けと言う。「イェルワダではここだと言われた」と言ったら、一応受け付けてくれた。「一応」というのは入口にあるノートに電話番号と苦情内容を書くだけのものである。「いつ見てくれるのか」「2日後」……甚だ心もとない。
再びプラモードのところに行くと、ハルグレーから話を聞いたらしい。まず電話局に行って「コンプレイン・ナンバー(クレーム番号)」をもらい、それをハルグレーに連絡するといいというのだ。しかもプラモードは電話会社BSNLのクレーム受付198に私の電話番号を連絡し、クレーム番号をもらってきてくれていた。さっきの電話局ではクレーム番号などもらっていないが、クレーム番号をもらう方が確実だろう。私の努力など、水の泡である。
翌日喜び勇んでハルグレーに電話するが、いくら電話しても出ない。またこれから何日かかるのだろうと不安になる。道すがら近所の人が「何か困っているのか?」と訊いてくる。「電話はつながらないし、水槽は掃除できないし…」「仕方ないさ、ここはインドなんだからな!」
この間、毎日ネットカフェに通う羽目になった。近いところは皆ナローバンドで遅く、3メガあるIME(日本語入力システム)をダウンロードするのはまず不可能だ。そこでCD-ROMに焼いて持ち込むことにする。絶望的なネット環境しかなかったカシミールで学んだ教訓だ。前から通っている自転車で10分のネットカフェは、よく停電していて使えない上に、最近ウィンドウズXPを導入し始めた。ウィンドウズ98の日本語IMEは3メガだが、ウィンドウズXPの日本語IMEは50メガもある(またはXPのインストールCDが必要)。そんなものは日本から用意してこない限り、インストールできない。というわけで何か用事を作って市内に行き、条件に合うネットカフェを見つけなければならなかった。
そして翌日、どうせ無理だろうと思いつつ受話器を持ち上げてみると、トゥルルルルル……! 驚いたことに電話がつながっているのである。プロバイダVSNLの調子が悪くてまた半日かかったが、インターネットにもつながった。こうして10日にわたるネットカフェ通いは終了となったのである。ほっ。
ちょうどその頃、今度帰国するK氏から連絡があった。K氏の近くに住む清水さんたちのお宅で宴会をするというのだ。とてもハッピーな気分で参加することにする。清水さんは元大学教授で有名な建築家。奥さんの林さんと共に、旅館などの設計を手がけてきた。気楽な余生をということで教え子の呼び寄せでインドに至り、K氏の住まいのすぐ近くに家を建てられたのである。バスを乗り継ぎ、最後はリキシャーで合計1時間。ついこの間完成したばかりの清水さん宅は、さすが建築家と思わせるスマートで素敵な家だった。すっかりご馳走になる。
清水邸でも、電話に目が言ってしまうのは仕方あるまい。リライアンスという会社のモバイルもできる最新の機器で、インターネットはLANケーブルからUSB接続ができるようになっているという、私が以前試みてダメだったやり方が可能になっている。電話でこれだけたいへんだったのは、私だけのようだ。
しかしプロバイダVSNLの接続の悪さにはうんざりする。前は3回かければ1回はつながったのだが、今は半日ずっとつながらないなんてことばかり。大人気の演劇のチケット予約開始日が、毎日続いているような感じなのである。でも話し中ではなくてプロバイダまではつながるのだから、電話代ばかりがかさんでいく。……「仕方ないさ、ここはインドなんだからな!」

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