今度住むことになった街は、新興住宅街とはいえまだまだ田舎である。
牧草地から集団で移動してくる牛、夜中に遠吠えしてうるさい犬、柱の影からすまなさそうに出てくる猫、あとは食料用として店の前に繋がれている羊、店の中のカゴに入っている鶏。
しかし何よりも驚いたのが野良豚の多さである。突進してきたらひとたまりもないような大きい豚から、生まれたばかりの赤ちゃん豚までたくさんの豚が、そのへんの生ごみを漁っている。人間に対して警戒心はあまりなく、よほど近づかない限りは逃げていかない。焼きとうもろこしの芯を与えたら、2匹がケンカして取り合っていた。
この豚、食用ではないらしい。アウンドでK氏が、野良豚にレンガを投げつけて捕獲しようとしていた人たちを見たというが、豚を不浄として食べないイスラム教徒だけでなく、ヒンドゥー教徒もその辺の野良を食べることはないという。食用の豚はきちんとオリに入れて飼育されたもので、かりに野良豚を食べるような人がいてもそれは賤しい人たちだろうと不動産屋は言う。もっとも、食用でも豚を食べる人はよく見られない。
お昼には近くの喫茶店でワダ・パウという軽食をチャイと一緒に食べることが多い。道端を見ていると次々と動物が現れて動物園の様相だ。電話をつなぐまでの格闘はまだ続いているが、動物を見ているとこうした悩みが馬鹿馬鹿しくなってきて癒される。