引越しを目前にして、時間があったので映画を見て帰る。プネー駅近くにあるシネマ・コンプレックス「アイノックス」は、映画の前観客を起立させて国家を流す。反抗して座ったままの人などいないので、私もしかたなく立つ。隣のお姉さんが国家を口ずさんでいた。何なんだろうこれは?
ラクシャ(目標)
〈あらすじ〉
パキスタン国境警備軍に新人のカラン(写真左)が配属されてきた。部隊長のスニル(写真右下)は彼を歓迎する。
カランは金持ちの家に生まれ、一人っ子として何不自由なく育てられてきた。そのため将来への希望や目標がもてず、思いつきで軍隊学校に入ることにする。
しかし軍隊学校の訓練は厳しく、お坊ちゃまのカランはついていけなかった。毎朝寝坊したり、訓練中にふざけたりしてそのたび罰として自転車を持って走ったり、泥の中をほふく前身させられたりした。カランはとうとう学校を抜け出してしまう。
しかし戻ってきたカランに両親は厳しく怒り、ガールフレンドのロミ(写真右)は口もきいてくれない。いよいよ落ち込んだカランは反省の末、学校にもう一度戻ることを決意する。今度は思い付きではなく、最高の兵士になろうという目的意識が芽生えていた。
カランは見違えるように訓練と勉学に励み、筆頭として学校を卒業する。早速ロミに会いに行ったが、ニュースキャスターになっていたロミは、ちょうど別の友達と婚約したところだった。失意のうちに軍隊に帰り、パキスタン国境警備軍に配属される。
ちょうどこのとき、パキスタン側から軍隊が侵攻、山を背にして駐留する。国境警備軍との戦闘は日増しに激しくなり、次々と犠牲者を出した。そこを取材に来たロミは、カランと再会するが、お互い心のわだかまりが解けない。
そんな中、スニルにパキスタン軍の排除を速やかに行う指令がきた。作戦会議の結果残された道は山の陰から急襲する作戦。しかし山を越えていくには長い断崖をロッククライミングで越えて行かなければならない。この作戦のリーダーに任命されるカラン。
作戦に赴く前にカランは友達からの手紙を読み、そこで実はロミが婚約を破棄していたことを知る。ロミに別れを告げに行くカラン。「待っているわ」「もう戻ってこれないかもしれない」「それでも待っているわ」……。
急襲作戦は難関を極めた。断崖を登る前にパキスタン軍の攻撃を受け仲間が死亡。さらに長い断崖を登っていくのは命がけだった。しかしカランの部隊はこれをやり遂げ、油断していたパキスタン軍に背後から急襲を仕掛ける。不意をつかれて全滅するパキスタン軍。多くの仲間を失いながらも、カランは作戦成功のインド国旗を立てる。
怪我が治って病院から出てきたカランに待っていたのは、両親とロミ。今まで反抗していた父親にカランは初めて抱きつき、その後はロミと抱き合うのだった。
エピローグ。スニルはこの作戦の成功を祈念して、カランたちが陥落させた地に祝勝の記念碑を建てた。この戦争は1999年にジャンム・カシミール州で起こったカルギル事件をモデルにしている。
〈感想〉
宣伝のポスターを見るからに嫌いな戦争映画だと分かったが、この頃よく乗っているバスの側面にこの映画の宣伝がしてあるのと、サンスクリット語である「ラクシャ」の意味を知りたかったのと、ヒロイン、プリティ・ズィンターのえくぼ、主人公フリティーク・ローシャンの右手(親指が2本ある)、スニル役のアミターブ・バッチャンの不自然な生え際を見たかった(ずいぶん不純な動機)のとで結局見ることにした。一昨日公開されたばかりの「ガルヴ」も気になってはいたが、主役のサルマン・カーンはどうせ暴力シーンばかりだろうとか、女優がいまいちだなとか、そういう理由でパス。予告編でやっていた透明人間映画「ガーヤブ」を見たい。
フリティーク・ローシャンのダンスがすごかった。体が柔らかすぎて人間っぽくなく、怖いくらいだ。
確かに後半は戦闘シーンが多かったが、メインテーマは若者の成長であるので、あまり悪くはなかった。豊かになりすぎて目標を失ってしまう若者というのはインドでもいるのだなあと感心。確かに映画を見に来ているぐらいの裕福な層ではそういうこともあるのかもしれない。
それにしても人に向かって銃を撃つというのはどんな心理状態なのか。主人公も最初は自分を奮い起こすように吼えながら発射していた。やらなければ、やられる。イラクでも、武器を持っている人間を見たらそう思うのが当然のことだろう。たった一発の銃弾が、家族をもち、歴史をもち、思考をもつ人間の人生を一瞬にして終わりにする。せめて弓矢ぐらいでやりあってほしい(それだって死ぬが)。
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