タージマハル

学会でデリーに寄り、帰国の飛行機まで1日空いたのでアグラに行ってタージマハルを見学する。
もともとは広島大学の小川先生が学生を連れて行く予定だったが、ご用事で行けなくなってしまった。そこでもともとアグラに行きたがっていた私に席が回ってきたというわけである。小川先生のご好意で貸切タクシー代は出して頂いたため、入場料だけですむという破格の旅行となった。感謝。
一緒に行ったのは以前プネーで勉強されていた創価大学の工藤さん、広島大学から今アーメダバードに来ている小林さん(※学会で発表した小林さんとは別人)。みんなインド暮らしの経験があるため、インド一のぼったくり都市で知られるアグラでも、何とか太刀打ちできるのではないかと思われた。
アグラまでは200キロ、道路はいいけれども車で4時間かかる。道中はインド暮らしの話に花が咲いた。楽すぎるきらいもあるが、快適な旅であっという間に着いた。
まずアクバル帝のお墓に到着。そこで謎のガイドが車に乗り込んでくる。「みなさンこんにちは!」にこやかな顔で親しげに話しかけてくる。訳が分からないのでドライバーに聞いてみると、「彼は会社で雇われているから、ガイド料はいらない。でも最後にチップをあげると喜ぶだろう」という。
このガイドがとなりで片言の日本語で話しかけてくるものだから、その相手をするのに気を取られてとても見た気がしない。そもそもせっかくの異国情緒が台無しである。アクバル帝のお墓を出ると、私はドライバーとガイドにガイドは要らないことを告げた。
ガイドは旅行会社から頼まれているからガイドをするのが彼の義務であること、気に入らなかったらチップは要らないことを主張したが、こちらはガイドが要らないこと、そして決定権はこちらにあることの2つで押し切った。タージマハルに着いたところでガイドはしぶしぶ退散。要らないものははっきり要らないというのがインドでは特に大事なことだ。
タージマハルタージマハルは昔の王様シャー・ジャハン帝が亡き王妃のために建てた巨大なお墓である。総大理石で出来ており、白い大理石が黒ずんでしまわないように500メートル圏内は車が入れない。公園の入り口で車から降りて、歩いていくことになる。ここが絶好のぼったくりポイントなのだ。
サイクルリキシャー、お菓子売り、土産物売り、飲み物売り、ガイド、物乞い…次から次へと近づいてくる。中には日本語を心得ている者もおり、日本人観光客がカモにされていることが窺い知れた。しかし我々はというと、すっかり慣れたもので徹底的に無視。足を止めないことがポイント。あまり嫌な思いをすることもなく、入り口まで到着できた。
入場料は例によって外国人料金でなんと750ルピー。世界遺産に登録されていることで維持の義務が生じているのだろうと工藤さん。しかしインド人・外国人を問わず、また平日にもかかわらず大勢の人出だった。インド人も、見るからにお金持ちという人と、見るからにおのぼりさんという風貌の人が多い。
誰でも写真では見たことがあるであろうあの白い建物は、入り口を入ってもすぐには見えない。白い建物の周りに大庭園があり、そこは全て城壁で囲まれているからである。城壁の外側にはもう一重の城壁があり、そこに入り口がある。厳重なセキュリティーチェック。ここからはタバコ、ライター、ナイフ、そして携帯電話も持ち込むことができない。
天気は快晴。絶好の日より。門を入ると青い空の下に真っ白で巨大な建物。その白さと大きさに心を動かされる。ゆっくりと歩いて近づいていくと、建物はさらに大きさを増し、もう信じられないくらいの大きさだ。まるで夢のよう。
白い建物は、外から見るだけでなく中に入ることもできる。靴を脱いで預け、ぞろぞろと歩いていく列に混じって大理石の階段を登っていく。上の階はまた広い大理石の広場になっており、さらにドームの中に入っていく。外の日差しから隔てられてひんやりした室内には王妃の棺らしきものが鎮座していた。
室内に漂う沈黙。王妃を失ったシャー・ジャハン帝の悲しみはいかばかりのものだったであろうか、この壮大な建物ははたして慰めになったのだろうかと、胸が熱くなった。命の重さは、この建物をいくつ建てたとしても代えられまい。
大気汚染測定大理石の建物の両脇には全く対称に同じ建物があり、左側はモスクでお祈りが行われていた。右側では大気汚染測定が行われており、電光掲示板で基準値を上回る数値が示されていた。車の往来から500メートル離したところで、この煙もうもうのインドでは完全に免れることができない。
建物の日陰になっているところで、大理石の上に座ってみんなのんびりしている。裏手はヤムナー川が流れており、その景色もすばらしい。歩いているだけで2時間があっという間に過ぎた。
車に戻ると、あのガイドがまた車に乗っている。何か嫌な予感をしながら、休憩した後に連れていかれたところはお土産屋さんだった。ここでまたひと悶着。
「ここはコースになっているから降りてもらわないと困る」
「何も買うつもりはない」
「土産物屋に寄ったというスタンプを土産物屋からもらわないと帰れない」
「じゃあ我々は車の中にいるからスタンプだけもらって来なさい」
「お願いだ、見るだけでいいから。そうでないとスタンプをもらえない」
「じゃあ今、旅行会社に電話して我々から言ってやるから、携帯を貸しなさい」
ここで工藤さんの「さっさと行けよ、コラ!」が炸裂。その迫力だけは通じたようで、結局スタンプももらわずに出発となった。
おそらく旅行会社のコースになどなっていまい。ドライバーとガイドの小遣い稼ぎだろう。土産物屋のショーウィンドウにはじゅうたんなんかが見えた。客を連れて行って高いものを買ってもらえば、いくらかのマージンがもらえるに違いない。こういう抜け目のなさは観光地に生きる人たちの定めなのだ。しかし気の毒だからといって、わざとカモになる訳にはいかない。
おそらく土産物屋で最後の攻勢を仕掛けようとしていたガイドはいよいよ退散。アグラ城(これまた広い)に寄って遠目にタージマハルを眺めた後、デリーに帰還となった。あれほどもめたドライバーは始めぶつぶつ言っていたが、わりとすぐに立ち直る。こういう根に持たない(悪く言えば学習能力がないということにもなるが)性格も、観光地に生きる人たちにとって大切なのかもしれない。
往復に8時間、現地での見学に4時間。日帰りの旅は無事に終わった。タクシーでなく電車やバスで行ったら現地のリキシャーとの交渉などもっと苦労が多かっただろう。そういう意味では、見学に集中できる贅沢な旅行だったと言えるかもしれない。小川先生に感謝。

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