大学

サンスクリット高等研究センター(CASS).ここで勉強していますこちらに来て1ヶ月くらいになり,大学の様子もだいぶつかめてきた.
今月は授業が終わり次第だいたい試験期間中となり,正規の授業は終わりつつある.この後今月末にディワーリー(ヒンドゥー正月)があって,次学期は1月1日からとなる.
私は当初,教授と一対一でテキストを講読するという目的で来た.ウダヤナという11世紀の学者の『ニヤーヤ・パリシシュタ』という本だが,旧ニヤーヤと言われるスートラ註釈史と,新ニヤーヤと言われる専門用語だらけの体系を両方知っていないとよく読むことができない.その両方に手が届く世界有数の学者が,V.N.ジャーと言う私の先生だ.現在プネー大学サンスクリット高等研究センター(CASS・写真右)のディレクターをなさっている.英語も訛っておらず,難解な術語も平易に説明でき,何より人に教えるのが好きという性格で,学生の誰もが尊敬してやまない.
だが講読は今のところ週1回,1時間だけ.今週と来週はその1回すらもつぶれてしまった.今の時期は学期末でさまざまな講演会が入り,インド各地から訪れる学者の接待にお忙しい様子だ.そこで余った時間,授業に出席してみようと思って出ているのが文法学.週5回,毎日1時間ずつサンスクリット語の文法学書『シッダーンタ・カウムディー』のカーラカ章というところを読む.こちらの先生はM.デオカールという若い先生.全盲であるがスートラはおろか,注釈まで頭に全部入っている.カーラカ章は読んだことがあるところだったが,微に入り細を穿つきめ細やかさに,すっかり気に入って出続けている.
そこに先週から,写本学の特殊講義が始まった.インド各地の大学で教えるシニア研究者向けに,古代から中世にかけてインドでさまざまに発展した文字を習うもので,3週間ぶっ通しで月〜土,9時〜17時(昼食休憩2時間)の濃い授業だ.シャーラダ文字という中世カシミール地方の文字を習いたくて先生に許可を得,ちゃっかり出席.ブラーフミー文字というアショーカ王時代の文字から,ベンガーリー,シャーラダ,ネワーリーなどの北方系,テルグ,カンナダ,グランタなどの南方系,それに暗号化された文字シャンカ(貝)文字など「これが文字なの?」というようなところまで隈なく習った.最初は信じられなくても,3時間くらい練習していると名前くらい書けるようになるのが楽しい(下の文字一覧参照).
こうした特殊講義は不定期に行われているらしく,私が来るあたりまではバルトリハリから非パーニニ派など文法学系の集中講義,その後ティルパティから先生が来てヴェーダーンタ学派の講義などが行われていた.どういう講義が行われるかは前の週くらいにいきなり貼り出されるので常にチェックが必要だ.
あとは残りの時間に,サンスクリット会話をヴィナヤクという学生から習っている.彼は日本語を習っているので,1時間習って,1時間教えるという感じでサンスクリット語と日本語の交換授業.文献は10年近く読んでいるが,「ありがとう(dhanyavaadah)」とか「さようなら(punar
milaamah)」と言った基本的な挨拶語や,メガネ(upanetra)・自転車(dvicakrikaa)・時計(ghati)などといった語彙は出てこないものである.「6時になっても私の弟が来なかったら,リキシャーで来て下さい.(shadvaadanaanantaram
api mama anujo na aagataz cet, bhavaan tricakrikayaa aagacchatu)」…実用的な文だなあ.一方,日本語会話の方も「自転車では30分かかりますが,バイクでは10分かかります」というようなどこかおかしな文を英語で説明するのが面白い.
ひとまず今月中旬まではこのような感じで忙しくなった.写本学と文法学が終わったら,自習の時間が増えるだろう.いろいろ読みたい本が増えている.
〈コンピュータ利用の授業で習った「ISCII(イスキー)」という文字コードを元に公開されているフォントたち〉

(言葉は全部「オーム,ナマハ,ブッダーヤ(南無帰依仏)」.左上から
西部地域…デーヴァナーガリー文字(サンスクリット語,ヒンディー語,マラーティー語共通),グジャラーティー文字,パンジャービー文字
東部地域…ベンガーリー文字,オリヤ文字
中部地域…カンナダ文字,テルグ文字
南部地域…マラヤラム文字,タミル文字

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