玄侑宗久作/文藝春秋
現役僧侶が芥川賞を受賞したということでとても気になっていたのだが、オカルトっぽいかなとこれまで読んでいなかった。
人が死んでから49日の間を中陰(ちゅういん)という。その間故人がどういう道を辿るか古来よりさまざまなことが言われてきたが「死んでもいないのにどうしてそんなことがわかるのか?」と思うとその手の話はいかがわしい。檀家さんの前ではあくまで伝承だと前置きをして話すことにしている。
しかしこの作者、芥川賞を受賞してからいろいろなところに連載などをしている。これがいちいち面白いのでとうとう買ってしまった。
読んでみてびっくり。そういう死後の世界にいかがわしさを感じている僧侶が主人公なのだ。
「せやけど訊かれるやろ、極楽はあるか、ないかって」「たまにね」「どない答えてはんのん」「だから、相手次第や。信じれば、あるんや。信じられなければ、ない」
まるで私ではないか。そして物語を通して死後の世界は、あくまでこの世に生きるごく普通の視点からのみ、描かれている。知ったようなことは何も書かれていない。そのことに深く共感する。
釈尊は死後の世界については「あるとも言えないし、ないとも言えない」と言った。さらに「どちらとも言えない」とも、「どちらとも言える」とも言うことすら禁じた。死後の世界を詮索するよりも、自分の今生に目を向けることが大事だと。
しかしながら、人は身近な人間の死に直面したとき、その後の行き先を考えずにはおれない。そしてそれは、単に生きている人の気の持ちようで、心の傷を癒されさえすればそれで万事よいのか、この物語は問いかける。成仏とは一体…?
学ばなければいけないことは、まだまだ多そうである。