『わかりあう対話10のルール』

とかくかみ合わない対話を、ディベートの方法論などを応用して解消するヒント集。3部構成で、基礎編では「論証」のイロハを学び、応用編では10のルールを提示しながらこじれた対話を整理、実践編では3つのダメな対話の修復を試みる。
解決の要点は、まず論点を明確にすること、その論点について経験的事実に基づいた根拠を述べること、その根拠から結論を導く論拠に注意すること(これが結構難しい)である。「10のルール」も、この要点を敷衍したものだが、ここでグライス流の寛容と協調の原理を導入するところが新しい。
寛容の原理とは、揚げ足取りをせずに相手の言いたいことを聞き手も力を合わせて再構成しようとすることである。「あなたの言いたいことは〜ということですか?」「あなたの意見の背景には〜という考えがあるのではないでしょうか?」など。
協調の原理とは、逆に話し手が必要な情報を提供し、証拠のないこと・関係のないことは言わず、あいまいさを避け、相手の発言に応答することをいう。いわゆる会話の格率である。
この2つは、無条件に相手に同調するということでは決してなく、あくまで対話のスタートラインに立つためのものである。その上で対立や問題の解決をしていかなくてはならない。
「10のルール」のうち、この2つの原理に関係するのは「2.相手の主張に対して、直接的、局所的に反応しないように心がける。」と「3.相手の主張には何らかの背景があることを想定し、なぜ、そう主張するかについての質問をしてみる。」「8.より信頼できる根拠を互いに提示するように心がける。」この3つだけでも意識すればこじれた対話も改善するだろう。敵対的になってはダメだ。
しかし実践編の3番目、夫婦喧嘩を修復するのはどうも成功した感じがしない。
[再構成案](p.197)
妻「自分で使ったお皿は台所の流しまでは自分でもって行ってね」と私が頼んだら、「わかった。そうするよ」と応えて終了する話じゃない。なぜ、素直な言い方ができないの。
夫 最初に僕が「はい、そうするよ」と従順に応えなかったから、君は僕に腹を立てたわけだ。
妻 だって、その言い方って感じがわるいでしょ。
夫 まあ、そうだね。
妻 でも、あのとき、あなたは、気持ちに余裕がなかったのね。だから、そんな当たり前の提案に「そうするよ」と答えられなかったのね。
夫 余裕を持って聴けば受け入れられる提案だったね。
この夫婦こわい〜(笑)。犬も食わぬ夫婦喧嘩、何をしても無駄だということを著者は示したかったのではないだろうか。
それはさておき、やや論文調で読みにくいけれども、前著『議論のレッスン』を新たな視点で発展させていて興味深く読めた。

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