置賜梅花流研究会(山形県第二宗務所管内)では平成17年度、師範・詠範を対象に「アヤ」の習得をめざす連続講習会が開催されました。「アヤ」という旋揺法は、梅花流の奥義といってもよいほど深遠で難しいものですが、これまでは口伝を主として教授されてきたこともあり、敷居が高い上に地域差・個人差も大きくなっているように見受けられます。今回の講習では、「アヤ」を構成する「アタリ」には音程があるという前提に基づき、西洋音階で練習していきました。
まず、長音階の場合です。はじめに、上から「ミーソミレミレー、レーミレドレドー、ドーレドラドラー、ラードラソラソー、ソーラソミソミー、ミーソミレミレー、レーミレドレドー」と下っていく練習をします。始まりの音からひとつ上がる音(ミーソミ)が「音尾のアヤ」、下がってからすぐにひとつ上がる音(レミレー)が「音頭のアヤ」になります。音尾と音頭のアヤを続けると「基本のアヤ」になります。慣れてきたらこの上向音をどんどん短く・やわらかくしていくと(最終的には装飾音符のようになります)、アヤが完成します。
長調のアヤのための練習譜
これを使って三宝御和讃、紫雲の詠頭にアヤを入れますと、以下のようになります(赤の小文字)。このように書くと間延びして見えますが、アヤを短くやわらかく入れることによって、拍が乱れないようにしなければなりません。
ソーソラソミソミーソーラドレーミレドレドレドラドラソーラ
こ こ ろ のや み を
ドードレドラドララーラドラソラソソーミソミソラソラソミソミーソー
く さ の いお に
上向音はひとつ上の音程を取りますが、四七抜き音階(ファとシを抜く)ですので、ファとシは用いません。ミの上はファではなくてソ、ラの上はシではなくてドです。この箇所だけ、インターバル(音程の幅)が広くなりますので、注意が必要です。ドとレ、レとミ、ソとラの間は二度(一音)ですが、ミとソ、ラとドの間は短三度(一音半)あります。高さの異なる上向音を、いずれも同じように聞かせるのはかなり修練がいるでしょう。
ですが、それ以上に難しいのが短音階のアヤです。短音階ではミとラが半音下がります。しかし長音階と同じく四七抜き音階でファとシを抜きますので、その結果、ミとソ、ラとドの間が長三度(二音)に広がります。これは、長音階の場合のドとミに相当する広さです。その一方で、レとミ、ソとラは減二度(半音)の幅しかありませんから、いずれも同じように聞かせるのは至難の業です。上級師範のお唱えではファとシを使って格差を是正していることが多いようですが、ゆっくり練習するとファとシを使うのは違和感があることが分かります。
短調のアヤのための練習譜
追弔御和讃の詠頭を例に取ります。「べ」の部分で音尾アヤが一音半あるのに対し、音頭アヤが半音しかないので、この辺りが難しくなっています。
ドーレミレドレドレーレミソーードラドラソラソミー
そ の な を よ べ ば
同じことは「不滅」にも該当します。梅花流では、たいていの曲がミとラを半音下げて短音階にする同主調転調であるのに対し、「不滅」はミとラを下げずにラから始める平行調転調をとっています。アヤの練習方法はレとソを抜いて、「ドーミドシドシー、シードシラシラー、ラーシラファラファー、ファーラファミファミー、ミーファミレミレー、ドーミドシドシー、シードシラシラー」となります(曲中にレが2回使われますが、その場合のみ例外的にレミレーという音頭があります)。
「不滅」のアヤのための練習譜
ラーファーーラファミファミファラシードシラシラードミドシドシシー
ひ と た び は
さて、短音階でこの二音の幅がある上向音をどのように自然に聞かせるかが問題です。現段階で考えているのは、以下の3点です。
- アヤの入る箇所は「弱」でやわらかく唱えること(弱拍ならばはじめから、強拍ならば一旦張って直前に絞る)
- 上向音の音程が聞こえるか聞こえない程度まで瞬間的にすること
- 原音再発声は強く当たらないこと
短音階のアヤは非常に難しいものですが、これに取り組むことで長音階のアヤもよくなっていきます。多くの師範がぶつかるアヤの壁、長い時間をかけて取り組んでいきたいものです。
※音頭のアヤはアタリではなくユリにする一派があるようです。確かにこちらの方が聴き心地がよく、正行御詠歌で指定されている「軽いアヤ」にもつながるのですが、指導必携の規定に従って音頭はアタリを入れるという前提で考察しました。