私は、東京大学大学院人文社会系研究科アジア文化研究専攻インド文学インド哲学仏教学専門分野(長い!)というところに在籍しています。この中で更にインド哲学、インド仏教、中国仏教、日本仏教という区分があり、その中のインド哲学に所属します。
仏教だけに限定されないでインド哲学を学べるところとしては他にも、広島大学、京都大学、九州大学、北海道大学、東北大学、名古屋大学,私立では早稲田大学、東洋大学、駒沢大学(西の方はよく知りません)などがあります。
東大では、1年生から東大という人はもちろん、3年生からの学士入学、修士課程からの入学と窓口はさまざまです。いろいろな興味と経歴を持った人がいるので楽しいです。
個人的にはプラマーナを研究する人が増えたらいいなと思っています。
この文章は、インターネットで筆者によく寄せられた質問に対する回答を編集したものです。この混迷の時代、インド哲学・仏教学を大学で学びたいという方は増えてきているように思われますが、まだまだ情報が足りないというのが現状です。少ない経験から振り絞って作ったものですから、あくまで一つの参考にしていただければ幸いです。ご意見ご感想をお待ちしております。
国内でインド哲学・仏教学を学べる大学は、一般的に地方中枢都市にある国立大学と、仏教各宗派の私立大学があります。
仏教各宗派の私立大学はそれぞれ専門とする宗学の蓄積が大きく、その専門で多くの研究者を輩出しています。駒沢大学でしたら道元や中国禅宗、大正大学でしたら空海や日本密教、龍谷大学でしたら親鸞や浄土信仰など、それぞれに得意分野があります。そのため他大学出身の研究者はなかなか入りこめないかもしれません。例えば日本印度学仏教学会という日本最大の学会がありますが、その学術大会の道元に関する部会で発表しているのはほとんど駒沢大学関係者です。宗門の批判はご法度というところもありますが、研究したい分野があるならばそれぞれ得意な大学を選ぶのは大事でしょう。
このことは国立大学についても当てはまります。国立の場合は私立大学のようなカラーはありませんので、教授が何を専門にしているかによって変わってきます。やはり研究したい分野に明るい教授のいる大学を選ぶことが重要でしょう。教授の専門は各大学のホームページである程度調べることができます。
ただ早い時期に自分の専門を特化させるのは得策ではないと思います。日本仏教が専門でもその源となったインドや中国の仏教を学んでおく必要はあるでしょうし、逆にインド仏教が専門だからそれ以降の仏教は知らなくてもよいと言うことにはなりません。さらに仏教に限らずバラモン教、ジャイナ教、イスラム教、儒教、道教、神道も重要です。インド哲学を研究したいならば、西洋哲学との比較という視点もでてきます。できる限り幅広く学んで、その中から自分の専門分野をゆっくり見つけていくという姿勢が正しいのではないかと思います。インド哲学・仏教学の基礎知識は、国立私立を問わずカリキュラムに組み込まれています。
大学には1年生から入る通常の入学と、学士入学(他大を卒業して3年生から編入する)、そして大学院入学(修士課程または博士課程)があります。通常の入学の難易度は予備校の資料などからわかりますが、学士入学と大学院入学の難易度は一概に比べることができません。基礎知識や語学力の試験がありますので、各大学に問い合わせて、できれば過去問を入手しておくとよいでしょう。東大の場合、大学院の入試には相当な学力(外国語2つに加えて、専門試験では論述、用語解説、サンスクリット(パーリ・漢文)原文和訳)が要求されるため、他大学出身者はいったん学士入学をして基礎学力を磨くようです。学士入学の入試は、外国語の試験と大学で学びたいことという小論文です。
各宗派の私立大学はもちろんのこと、国立大学でも僧侶または寺院の子弟という学生は相当います。東大のインド哲学仏教学研究室の場合約半数がそうです。仏教系大学では入学などの際に僧侶であることでいくらか有利にもなるとも聞きますが、一般には実力主義です。広く学び、深く考え、優れた研究をしている研究者が生き残ります。ただし、実力主義の中には(国内外の)優秀な先生のもとで勉強していたという実績が加味されます。インド哲学・仏教学の方法論は特殊なので、独学でというのは仏教思想家になるならいいとしても研究者としては厳しいかもしれません。
文系の学者は就職が遅い(またはない)ということをよく銘記しておく必要があります。僧侶であるかどうかに関らず、また最近では実力に関らずなかなか就職できない状況です。奨学金、アルバイト、家族からの援助、みんな学資の調達には四苦八苦しています。それでも学問を続けるのは、好きだからという理由だけです。
東アジア仏教なら中国語、南アジア仏教ならドイツ語というのが一般的です。いずれの場合も英語は重要です。興味があるならばハングル語やヒンディー語を勉強しておくといいでしょう。サンスクリット語、パーリ語、チベット語などはたいていカリキュラムに含まれていますが、早めに始めておけばやっただけの甲斐はあると思います。