ニュルンベルク玩具見本市2008~日記編

ニュルンベルク玩具見本市2008~日記編

1日目 初めてのニュルンベルク

チャーン、チャーンチャチャーン♪(BGMワーグナー『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第一幕への前奏曲)

毎年2月初頭に開かれるニュルンベルク玩具見本市は、ドイツの主なボードゲームメーカーが多数の新作を発表することで注目される催しだ。玩具全体からみるとボードゲームの比率は1~2割に過ぎないが、それでも発表される新作は数百タイトルに上る。前年のエッセン国際ゲーム祭で発表されたものと合わせて「今年度の新作」になるが、その数はエッセンを上回る。受賞数が多いのもニュルンベルクで発表されたほうだ。
 この見本市は業界関係者だけのクローズドなメッセだ。メーカーとバイヤーが商談をするのが主な目的。そこに私が行けることになったのは、プレスパスが発行されたからである。フリーのボードゲームジャーナリストとしてウェブ登録したところ、クーポンが郵送されてきた。それなら行くしかないと飛行機を取り宿を取り、気がつけばニュルンベルクにいた。
 飛行機はいつも使っている日本航空フランクフルト行き。「JAL悟空」という早割サービスを使ったところ、格安航空券より安い往復74,000円という価格が出た。実際は燃料サーチャージが30,000円も加わるが、これだけ安いのは寒くて観光客が少ないからだろうか。でも乗ってみたらほぼ満席だった。『フラガール』と『燃えよドラゴン』を見て、あとはウトウト。フランクフルト18:00着。
 荷物検査は全員でなく、適当に捕まえてカバンを開けさせる。黒づくめに黒バンダナとあっては、何の宗教かと思われたのか捕まってしまった。どでかいトランクを開けると中身はほとんど空っぽ。クスクス笑う係員。「買い物するのか?」「そうです」「お金はいくらもってる」「200ユーロくらい」「200ユーロだけ?」大きなお世話だ。
フランクフルト空港駅 空港第2ターミナルからシャトルバスで第1ターミナルへ。そこにフランクフルト空港駅がある。長距離鉄道のホームに行き、ニュルンベルク行きICEのチケットを購入。49ユーロ。ほどなくしてエッセン発ミュンヘン行きの列車がやってきた。ニュルンベルクまで2時間。時差もあってぐっすり寝込んでしまう。ふと目を覚ましたらちょうどニュルンベルク駅で慌てて飛び降りた。5~6度はあっただろうか。思ったより寒さは感じない。
 宿はHRSというドイツのサイトで駅前のホテルを予約しておいた。なにしろ人口50万の街に8万人が集まるイベントである。見本市が始まる7日からは近郊も含めてほぼ満室。プレスイベントのため1日早く到着したからよかったものの、予約できたのは今日のみ。明日も泊まれるかはキャンセル待ち状態。寒空をさまよいたくないな~。

2日目 プレス公開日

朝食後フロントで問い合わせたらあっさり泊まれることが分かった。ただしメッセ期間中ということで宿代が跳ね上がる。昨日は一泊朝食付きで66ユーロだったのが、今日からは118ユーロ。「問題ないよ」といきがって見せたものの、内心ぼったくっているとしか思えない。
 ともあれ懸案が解決し、うきうきした気分で会場に向かう。ニュルンベルク中央駅から地下鉄U1線で約10分、「メッセ」は地上駅である。はためくトレードマークの旗。ついにやってきたという高揚感に襲われる。会場は広大で、しかも今日の催しは一番遠いところで行われるためシャトルバスが運行していた。
 プレス関係者に新作を発表するプレス・プレビューは9時から。もう昨日から準備しているふうだったが、出展者が思いのほか少ない。ボードゲーム関係でいうと5、6社くらい。プレビューの出展料も馬鹿にならないので、中小企業の多いボードゲーム業界は控えているのかもしれない。微妙にボードゲームでないものまで話を聞いて回ったが、いくら粘っても2時間もかからなかった。プレスルームにあるパソコンでメールのチェックやミクシィをする。
 夜のオープニングセレモニーまで時間が余りすぎたので一計を思い立つ。ホテルに戻って重いパンフレット類を置き、市内散策をしてみることにしたのだ。駅前の観光案内所で地図をもらって鉄道博物館へ。旧市街の濠に沿う駅前通りの街並みを眺めながら、でもスリに気をつけてのんびり歩いていった。伝統が感じられるすばらしい景観である。
 鉄道博物館を見ることにしたのは大正解だった。何でも1825年(江戸時代だ)、ニュルンベルク~フュールト(ゴルトジーバー社のある街)間にドイツ初の鉄道が引かれたのだという。鉄道オタクでなくとも、初期の蒸気機関車の実物、ルートヴィヒ2世の使った金ピカ御用列車、ナチス時代の帝国鉄道、そして爆撃からの復興。懐かしい切符売り場、壮大な鉄道模型……2時間があっという間に過ぎた。これで入館料4ユーロは破格の安さだと思う。すごいすごい。
 その後は再びメッセ会場へ。6時半からのオープニングセレモニーには、ニュルンベルク市長、バイエルン州知事が来ており、長いスピーチを披露した。市長が子どものころ遊んだおもちゃを会場で予想したり、州知事がモノポリーで遊んだ話をしたりするなど、ドイツでは遊びが文化として定着していることを思い知らされた。
 続いて大学教授が遊びがテレビなどと比べて子どもの発育、特にニューロン形成に及ぼすよい影響を講演。日本の「頭のよくなる」というキーワードは確かに親にウケている。一方のドイツでは知能をアップさせるものというよりは、コミュニケーションや協調性を育てるものとして重視されているようだ。ボードゲームをやっていても知能がアップすることはまずないが、会話がスムーズにできるという効用は私も感じている。
 それからいよいよニュルンベルク名物、トイ・イノベーション賞の発表。ボードゲームは「トレンド&ライフスタイル」部門でフッフ・フレンズ『すばらしい料理の世界』が選ばれた。スターシェフが監修した料理トリビアゲーム。このゲームも含め、どの部門も奇をてらったものが選ばれているようだ。安心して遊べるものも大事だろうが、今後のトレンドを作っていくためにあえて風変わりなものを選んでいるのかもしれない。
 部門が8つもあるので終わったのは開式から2時間後。でも市長と知事が最後まで聞いていたのはすばらしい。無料で提供される食事を頂きながら、鉄道模型の取材で来たという日本人の方としゃべって一日が終わった。

3日目 初日 

朝食後フロントに確認したら今日はもう空き部屋がないとのことで、あっさり追い出される。大丈夫だろうと高をくくっていたので焦ったが、昨日訪れた駅前のツーリスト・インフォメーションで近くのホテルを紹介してもらった。今度は95ユーロ。前のホテルより23ユーロも安くなって得した気分である。
 さっそくチェックインに行くと、エレベーターのドアは手動、フロントのレシートは手書きの古めかしいホテルだった。とはいえインドで泊まった500円宿と比べれば格段の違いである。これで一安心して会場へ。予約をしていなかったというだけで毎日不安と安心が行きかうものである。
 会場ではボードゲームメーカーが集まる10.1というホールでほぼ1日を過ごす。見本市なのでゲームを買ったりサンプルをもらったりすることはほとんどできないのは分かっていたが、実際にテストプレイもできないのはフラストレーションがたまる。淡々と説明を聞いて次のメーカーへというのを繰り返していた。それでも十分楽しいんですけどね。
 説明を聞いたゲームは今日だけで38タイトル。これはと思ったのはハンス・イム・グリュックの『石器時代』、アミーゴの『ホルス』、イスタリの『メトロポリス』、アバクスの『アクアレット』、クイーンゲームズの『バタヴィア』、アイデンティティゲームズの『ライブクイズ』、ゴルトジーバーの『サバ』、ファランクスの『スルタン』、コスモスの『トレド』、ウィニングムーブズの『ヴィネタ』あたりか。既視感が漂いまくる要素が多いが、楽しさを十分予感できる。あと『ルミ』が『3Dブロックス』として再販されのに驚いた。
 午後遅くなってメビウスおやじさんとやっと会えた。昼食をご一緒させて頂き、ゲーム談義に花を咲かせる。ほかにもドイツ年間ゲーム大賞審査員のヴェルネック、メーヴェス、バルチの各氏、デザイナーのコロヴィーニ、カサソラ、ブルム、エッゲルト、グリム、レヒトマンの各氏とお話できたほか、クラマー夫妻も見かけた。バルチ氏などは挨拶ばかりでゲームを見ている暇がなかったという。一般参加者がいないのは寂しいが、会場の人口密度が低い分、ゆっくり話し込んだりできるのはよいと思った。
 夕食もメビウスおやじさんと待ち合わせて旧市街へ。シュヴァインハクセとニュルンベルガーソーセージを食べながらビールを飲む。ドイツで飲むビールは水みたいなもので不思議と酔わないものだ。時差ぼけのせいか眠いので早めに解散。

4日目 ニュルンベルク脱出

 移った宿は古い建物の中にあったが、部屋は改装したばかりの新しさで快適。朝食はハムや卵や紅茶をひとりひとり運んでくれる家庭的な雰囲気が気に入った。自然とほかの客が来るとおはようの挨拶も出る。
 今日はトラブルもなく開館の9時より少し前に到着できた。そこで昨日見た10番ホールの外を探索する。ボードゲーム関係のメーカーは10番ホールに集中しているが、別のホールにあるメーカーもある。乳幼児玩具のコーナーにあるハバとセレクタ、総合玩具で大きいブースを取っているラベンスバーガーとハズブローだ。
 会場はだいたいジャンルごとにホールが分けられている。ただ中国、インド、日本などの遠方の各国はジャンルが違っても同じ場所にまとめられていた。日本ブースではジグソーパズル、ラジコン、人形、鉄道模型などを展示。残念ながらボードゲームはない。
セレクタもハバも、ボードゲームはほんの一部に過ぎない。それでもひっきりなしに説明を聞きに来る客がいるのは、子どもゲームの人気を物語っているだろう。ハバ社では試作品だったせいか写真撮影を断られた。
 でももっと厳しかったのはハズブローで、20分おきに開かれている見学ツアーに参加しないと中を見ることができない。パーカーの新作1つを見るために、30分もフィギュアとかぬいぐるみの解説を聞くのだ。パーカーの新作の前でしばらく粘っていると「申し訳ありませんがもうお時間です。私について外に出てください」と追い出されてしまう。写真撮影も禁止。クニツィアやクラマーを立てた「デザイナーズゲーム」シリーズが、ドイツのボードゲームメディアから無視されたり酷評されたりしている理由が分かった気がする。
 寂しかったのはラベンスバーガー。受付で「アレアの新作は?」と聞くと「アレアならハイデルベルガーに行って下さい」とつれない返事。売れないからといって露骨だなと思ったが、ハイデルベルガーのブースではK.H.シュミールが楽しそうに新作を詳しく説明してくれた。アレアも居場所を得たり。ついでに『護民官』についても質問する。
 11時からはSAZ(ゲームデザイナー連盟)のフォーラムを聞きにいく。テーマは教育ゲーム。「教育を前面に出すゲームはゲームとしてどうなのか」という話を期待していたが、知らない顔ぶれのパネリストが教育面の効用ばかりしゃべっていたので抜け出した。2FシュピーレのF.フリーゼも全くそっぽを向いて新作の試作品を説明している。
 あとは適当に目がついたメーカーでゲームの説明を聞く。客が少ないところはちょっと目が合っただけで引き止めて話を聞いてもらおうとする。大メーカーのつっけんどんな態度にうんざりしていた身としてはその積極性が嬉しい。
 2時ごろ退出して旧市街のデパート「ガラリア」と「カールシュタット」へ。最近のゲームが5ユーロなんかで叩き売りされているので食指が動いたが何とか思いとどまる。お土産を見ながらホテルへ。昨日の時点で大方のメーカーをチェックし終わっていたのでニュルンベルクを出ることにしていたのだ。
 またICEに乗ってシュトゥットガルト近くの小さな街に住んでいる叔母の家へ。ニュルンベルクから3時間。南ドイツの田舎を通り抜けていく。森、街、森、牧場……日中の車窓はいいものだ。となりの席のおじさんとしゃべっているうちシュトゥットガルト着。そこから乗り換えてさらに1時間。叔母が駅まで出迎えてくれた。街一番というレストランでシュヴァーベン料理とワインをご馳走になり、帰宅してノートパソコンにLANをつながせれもらう。これから久々のお風呂に入って寝ます。

5日目 田舎町でのんびり 

久しぶりのお風呂でゆっくりできたせいか、それとも床に寝れたためかぐっすり眠ることができた。いよいよ今日が帰国である。
 叔父さんと駅まで切符を買いに行き、ついでにお土産をいくつか購入。ソーセージなどの肉類は成田の検疫がまだ厳しいのか分からないが、叔母が大丈夫というので買い込んだ。
 土曜日なので午後になるとどんどんおが閉まっていく中、おもちゃ屋さんでゲームをチェック。だがユーロ高のためぜんぜん安く感じない。それに日本で売られていないようなゲームもいまや少なくなった。クニツィアのDie Inselに少し惹かれたが、ドイツ語が聞き取れる人でないと遊べないのでやめた。
 子どもにミニカーと洋服を買って帰宅。これから15時に出発して空港が18時着。20時の飛行機に乗って、明日の(日本では今日の)夕方に着きます。現地レポートはこれでおしまい。読んで頂いてありがとうございました。
ゲームのレポートは帰国後に。

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